SYNC
自然界に存在する生物、無生物の集団がみせる同期現象を数学によって解
き明かす研究の話。
本書が扱うアプローチでは、系を構成する振動子の相互作用をモデル化す
るため、系の振舞いは、これを構成する粒子によってのみ決定される枠組
みを乗り越え、生物にも無生物にも、物理にも社会にもみられる、広い同
期現象を説明するモデルとなる。
このような系は非線形であり、一般的な解を求めることはできないが、コ
ンピュータシミュレーションによる系の振舞いの理解と、対称性を供えた
数学によるモデル化の両輪で、研究は深化する。決して、シミュレーショ
ン=応用、数学モデル=理論という関係ではない。
後半は、カオスとネットワークの研究の話。
同期現象の研究を深化させる過程で、相互作用に着眼した方向性からダン
カンワッツのネットワーク研究がスタートしたエピソードが載っている。
本書では、ネットワーク研究は、同期現象の研究のうち、振動子に限らず、
相互作用に着眼したことで拓かれた領域と位置付けられていると理解。
カオスは本書にあるホタルの発光、人の睡眠リズム、超伝導などよりも古
くから知られた現象ではあるが、単純な相互作用が一見ランダムな
振舞いを生み出すもので、こちらも同様の文脈であろう。
最後に、系の振舞いに対する予測の限界について、原理的な限界を予想す
る次の記述について、今後知識を得たいところであり、引用する。
(p.280)非カオス系は、少くとも原理的には予測可能であるということに
なる。…一方、カオス系はそれとはまったく異った動きを見せ
る。…カオス系の状態をどれくらいの期間にわたって首尾よく予測で
きるかは、次の三つの条件によって決まる。つまり、(1)どれだけの予測
誤差を許容するかという点と、(2)カオス系の初期状態をどれだけ正確に
測定できるのかという点、そして、(3)カオス系自体の力学によって決ま
る、われわれの力の及ばない時間尺度(これを「リヤプノフ時間」と言う)
の三点である。
研究者:
スティーブン ストロガッツ(数学)、ダンカン ワッツ(数学)、
ブライアン ジョセフソン(物理学)、蔵本由紀(物理学)、
ノーバート ウィーナー(数学)、エドワード ローレンツ(カオス理論)、
スタンリー ミルグラム(社会心理学)、
ボリス ベローソフ(化学)、アーサー ウィンフリー(生物)、
キーワード:
グラノヴェッター モデル(流行学)、リアプノフ時間、カオス、
スモールワールド ネットワーク、スケールフリー、