mRNAワクチンの衝撃: コロナ制圧と医療の未来 | ジョー・ミラー

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ファイザー製」でとおっているビオンテック社のCOVID-19ワクチン開発ストーリー.ロンドンに住んでいてロックダウンが繰り返された裏側では,こんなことが起こっていたんだ,と当時を振り返りながら読んだ.日系人向けに某メディア主催の勉強会ではmRNAついて勉強したりしたものだが,そんな風にのんきに学ぶ気になったのは,集団接種が始まって,パンデミックをコントロールできる可能性が見えてきてからだった.開発した当事者にしてみれば,自分が確信していたとしても治験で問題が起きたりしたら,と心配が尽きなかっただろうと思う.

様々な産業でイノベーションと規制の両輪の重要性が認識されていると思うが,規制する側というのも杓子定規にルールで縛るだけではないんだ,ということを忘れがち.世界規模で人類に直面したから特例で,ということではなく,やるべき試験・治験はすべてやる前提で,いかに「光速で」ゴールを達成したか,という点が強調されている.これを可能にしたのは,多様性を認めあう環境,予測困難な事業の成功にあたって人への投資がカギであった,のような持続可能社会におけるイノベーションの姿を示すようなメッセージで締めくくられる.

サイエンス読み物なので,検証されていない事件に対する憶測など(例:COVID-19の発生源とか)は慎重に除外するスタンスなので,悪者は登場していないが,大統領選での敗退を歓迎するような形でトランプ前大統領の言動が批判されている.EUによるビオンテックへの投資に関する優柔不断な態度は,ビオンテック科学者の意見でバランスをとり,中立の素振りを見せながら著者は批判的なのではないかと思った.