サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福 Kindle版

サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福 Kindle版

学校の教科書の意味とは異なるが「全史」とするのに相応わしい.学校では歴史上のイベントを追うばかりになってしまうが,教養や学問としての歴史としては,そこから何を教訓とするか,みたいな価値が問われてくる.この観点からいえば,アミニズム,多神教一神教と連続した変遷の上に資本主義,帝国主義があり,宗教もイデオロギーも同等に扱われる.サピエンスは,ウソを信じる=イデオロギーを持てるからこそが地球を席巻できた.帝国主義と資本主義が手を組んで科学が発展した.帝国主義は世界をグローバル化し,現在は国によらず人権主義が共通したイデオロギーとして認知されているが,科学の発展は様々な意味で,これを否定する可能性がある.その行き着く先に,サピエンスは自身を超越し,「神」になることを目指す可能性がある.

非常に深い内容なので,感想は述べきれない.2つだけ感想や感慨を述べるなら,1) 高校生で読んでいたら,大学の教養課程で文化人類学なんかにも興味が持てたと思う.当時は,アミニズムを研究する意味が全くわからなかった.文化人類学だけを履修するのではなくて,この本のように歴史を俯瞰する「全史」が選択できたら,と無理な注文をしたくなる.それから,2) 英国に駐在していると,15章「科学と帝国の融合」に記述されている帝国主義の爪痕を体感でき,英国がどうしてこんな国になっているのかが理解できるようになる.日本に暮らしていたのでは,本書のような帝国主義に対する見方はできないだろう.歴史的,地勢的に複雑な地域に生まれた著者だからこそ,このような著作が可能だったのではないだろうか.体験でしか得られない知識というものがある.正しく留学し,著者のように「全史」を記述するような学者が日本からも出てほしい.