ビッグデータがビジネスを変える

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    ビッグデータの利活用事例について、現時点で代表的な事例をあげて、わ
    かりやすく紹介・解説されている。同業界に従事する身としては、知らな
    い事例はなく、新しい情報はないが、この本が対象とする読者には有益で
    あろう。オープンデータについて言及がないが、これ以上は難しいぐらい、
    事例の選択や解説がすばらしい。

    ビッグデータ利活用に対する著者の意見は、以下に絞られる。

    1. 情報通信技術の役割が大きく変わりはじめている。
    効率化やコスト削減の道具から、新しいビジネスモデル創造や、製品・
    サービスの付加価値を高める資源へ。
    ビッグデータ活用は、企業経営分野に関係する現代の兵器やロジスティッ
    ク。

    2. 危機意識、責任感をもった行動が重要。多くの人が行動しない理由：
    - 豊かさに慣れ、安住
    - やる気はあっても、何をしたらよいかわからない

    3. 我が国はビッグデータを始めとする情報の活用方法を学ぶ必要がある。
    - ビッグデータの重要性や活用によりビジネスが根本から変わる可能性
    に気づいている人は多くはない(記者、国民とも)
    - 経営者に情報の利活用に関するビジョンがない。アイディアひとつ、ビッ
    グデータの活用という技術革新に気づいていない人が多い。

    特に新しい考えではないが、いずれも正論だと思う。技術の進歩のおかげ
    で、自分で作らなくても買うことができる世の中になった。しかし、いま
    再び、アイディアひとつで、自分で作れば世の中を変えられる可能性があ
    る、と前向きに捉えたい。

    また、著者はビッグデータの活用手順も示している。まず、ビッグデータ
    の活用で新たな付加価値やビジネスの創造が可能か検討すべきだという。
    これって、リーン・スタートアップと似たところがあるように思う。

    1.全体を見た方針、活用のシナリオ策定
       情報(=ビッグデータ)をどう収集するか(自ら、パートナーから、ネッ
       トから、外部から)
    2.活用シナリオに沿った活用が実際に可能かどうか検証
       そのための有効な分析手法を探る必要がある
       収集する情報の追加、収集・集積方法の改善の必要もある

    カギになるのはデータの収集>集積>分析>活用ということだ。したがって、
    データを集めることに成功した者が勝者となるのは想像に難くない。以下
    はコンテンツビジネスに関することだが、マーケティング、製造業ほか、
    何でも事情は同じだろう。

    「誰かがコンテンツの集積に成功すれば、利用者がそこに集まり、さらに
    コンテンツを集積する力が働き、加速度的に拡大するからです。」
    - 世界ではいかにコンテンツを集積するかに知恵を絞っている。
    - 我が国では各企業が規模の経済性を考えず、個別に動いている。

    (メモ1：紹介されている事例と企業)
    マーケティング：
    ホットペッパー(リクルート)、アマゾン、クックパッド、食べログ(カカ
    クコム),日本酒物語、スヌース、アットコスメ、SUICA

    製造業(保守サービス)、農業：
    KOMTRAX(コマツ)、早和果樹園
    富士キメラ総研「2010年国内センサー販売数=45億個、世界=170億(推計)」

    位置情報：
    タクシー配車(日本交通)、自動車通行実績マップ(Google)、NTTドコモ、
    ゆめぱ(城崎温泉)

    サービス(翻訳、クレジットカード不正利用、予測・予兆(ヒット、故障))：
    Siri(Apple)、西野ひかり(NTT西日本)、

    コンテンツ：
    紅白歌合戦(デジタル放送)、Kindle(アマゾン)、NHKオンデマンド、JCOM、
    Netflix、Hulu、スポティファイ、OTTAVA

    社会問題：
    東京ゲートブリッジ(橋梁監視)、スマートシティ、スマートグリッド
    ストックホルム(渋滞・CO2緩和)、サンタクルーズ,CA(犯罪、警官配置)、
    デジタル教科書(韓国)、シンガポール(自律・協調学習)、
    健康管理(富士通)、タニタ、投薬DB(スウェーデン)、電子健康記録(EHR,
    欧州など)、どこでもMY病院(日本)、オーダーメイド医療(ケベック)、
    東北メディカルメガバンク(日本・東北)

    その他：
    ボンクラーズ(囲碁)

    (メモ2：文献)
    ○「次世代エネルギーシステムに係る国際標準化に関する研究会報告書」(2010.1)

    ○シュペーター(経済学者)「イノベーション論」

    ○深尾「失われた20年」
    情報通信投資の比較(2000年以降)
    - 日本3%で減少、欧米・韓国5%で増加傾向

    ○マッキンゼー「ビッグデータ：イノベーション、競争、生産性の次のフロンティア」
    2010年に新たに蓄積された情報量の比較
    - 北米 3500PB、欧州 2000PB、日本 400PB

    ○情報処理推進機構「つながるITがもたらす豊かな暮らしと経済〜ビッグデータの価値と信頼〜」,2012.3
    ビッグデータ活用
    1.経営戦略、事業戦略の策定(44.4%)
    2.顧客サービスの向上(44.4%)
    3.販売促進・見込み顧客獲得(39.3%)
    4.製品開発(34.6%)

    ○佐伯「欲望と資本主義」
    経済活動自体が、ほんらいは広い意味で文化という土壌と不可分
    - 産業主義は、それを技術の次元に還元し、文化から切り離そうとした
    - ようやく、欲望を産業技術のフロンティアの奴隷にすることから開放
    されようとしている