「社会調査」のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ (文春新書)

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谷岡一郎
文藝春秋
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    この本は、無意識に、あるいは故意に、マスコミや研究者などが生みだす
    バイアスのかかった社会調査(=ゴミ)を、具体例を挙げて批判する。ゴミ
    を排除するための制度の提案や、市民がゴミを見ぬくリテラシーを習得す
    る必要性を説いている。

    だが、この本を読んでいるあいだ、ずっとひっかかったことがある。

    十分に賢ければ、正しい因果を調査やデータから見つけだすことは常に可
    能だろうか？検証を経たもの以外は、つまり判明するまでは、すべての因
    果は後付けではないのだろうか。そして、判明する時期は調査時にはわか
    らない。もしそうならば、調査の事後に「あたりまえ」とか「考えればす
    ぐわかる」と言って批判することにどれだけの意味があるのだろうか、と
    いうことだ。
    参照) ダンカン・ワッツ「偶然の科学」

    また、この本は佐藤優の「読書の技法」の定義によれば、「トンデモ本」
    に分類されると思う。なぜなら、論理的に矛盾する内容を含んでいるから
    だ。論理的におかじなところがあるといって、この本全体を否定する気は
    ないが、読もうか迷っている人にはオススメしない。

    たとえば以下。

    (p.139) 「単なる偶然」について

    的を得た指摘は「たった60人で何がわかるか」のみ。他は「たった60人」
    の調査に対して、論理的に指摘を行うことに意味がないため、的はずれ。
    「スペースの無駄」ではなく、主張が論理的におかしい。

    また、以下の2つの内容も相互に矛盾する。

    (p.108) 事前にきちんと理論と仮説とその検証プロセスがあって、そのと
    おりのプロセスで検証された結果を見なければならない。
    このように論理構成が事前に決定されている状況を「アプリオリ(a
    priori)」といい、…社会学は様々な一過性の邪魔が入りやすい「社会」
    を対象とするため、その検証には、より高度な論理構成が「アプリオリ」
    にできていなくてはならない。

    (p.110) 学者の共通語として「科学方法論」というものがあることをくり
    返し説明してきたが、その中の一つに「他人が行った検証を追試してもよ
    い(というより、すべきである)」という不文律がある。ある学者が行った
    実験なり調査なりは、その全プロセスを聞き出して、自分で再検証するこ
    とが可能なのである。その学者が検証に用いたデータの公開を求めること
    もできる。

    前者では一過性の邪魔は不可避だと言っておきながら、後者では追試をす
    べきで、再検証が可能と言っている。邪魔があるのでは、再検証にも邪魔
    がはいる。そのような邪魔だらけのもので検証は無理だ。よって矛盾して
    いる。

    前者の立場に立つことは、学者として真摯な態度であり、この点には賛成
    だ。ならば、後者のように再検証すべきなどと意地をはるのではなく、社
    会学は、自然科学のように再検証することは容易ではないながらも、社会
    に役立つことをその本分とする、とかいってくれれば納得するのに…

    引用文献が批判の対象となった文献ばかりというのもいかがなものか。調
    査の方法論などに関する書籍や学術論文などを引用すべきだろう。少くと
    も、マズい調査を批難するなら、しかるべき社会調査の方法論を解説した
    専門書を引用することが必須である。そういう文献がない(考えられない
    が)ならば、批判を通じて主張するのではなく、まずそのような専門書を
    書くべき。

    感想1：バカ退治が好きなひとというのが、どうも好きになれない。これ
    は評論家の仕事。学者のやることではない。

    感想2：データが公開できぬわけ=はずかしくて見せられない。案外本当か
    もしれない。本書によれば、社会学コミュニティは、本書を含めてだい
    ぶお寒い状況のようだから。

    感想3：エスノグラファーたちがこの本を読んで何というか興味がある。
    なにしろ、インタビュアーがバイアスになると言っている(この点は本書
    の意見に賛成)のだから。自分たちの存在意義を全否定されたようなもの。

    賛成：メディア・リサーチ協会、学術リサーチ協会の設立
    ただし、ヘア・ヌードを載せていることと、協会への参加拒絶は関係ない
    社会学ではまともに学会が機能してないの？信じられない。サイテーショ
    ン・インデックスにあたる評価はあるのでは？大学の出世が紀要だけし
    か考慮されないかどうかは知らない。

    反対：「社会科学方法論」、「社会調査論」を高校レベルの課程に含める
    こと。ちゃんと5教科を学べば、そんなことわかるでしょ。大学で授業に
    するのは勝手にやって。

    法規：
    統計法(指定統計・届出統計)

    言葉：
    スプリアス効果(spruious effect)、隠れた変数、逆の因果、
    シーズナル・バイアス、メモリー・イフェクト(記憶効果)、
    ドラマタイジング・イフェクト、トランスレーション・バイアス、
    反復調査、パネル式調査、インタビュアー効果、キャリーオーバー効果、
    フォーストチョイス

    メモ1：リサーチ・デザイン
    1) 時期・回数, 2) データ収集方法, 3) 質問票, 4) サンプル抽出

    メモ2：サンプリングにおけるバイアス
    数が少ない, 母集団がわからない, 比較できないサンプルを扱う,
    代表的な意見を反映していない